
「はたしてパット・メセニーにハツはあるのか?」
それを確認することが本日の私に課せられた任務である。
私はその雑居ビルの階段を駆け上がり、恐るおそる〈ダウンビート〉のドアを開けた。いつもの可愛らしい女の子に「ジントニック」と飲み物のオーダーを告げ「それから…」とリクエストをしようとすると、彼女は「パット・メセニーですよね?」と言ってきた。
「わかる?」
「わかりますよ」
と、最早私と彼女はツーカーだ。
運ばれてきたジントニックを飲みながら、「TRAVELS」の1曲目「Are You Going With Me?」がかかるのを待った。
〈ダウンビート〉の店内は薄暗い。その薄暗さがとても心地よいのだ。壁には初代マスターが描いたジャズメンのポートレートが飾られている。
勢いのよい「タ、タン」というドラムの音とともに曲が始まった。独特のリズムが刻まれる導入部から、ライル・メイズのキーボードソロへと続き、ついにパット・メセニーの長いギターソロが一気に始まる。私は頭のなかのギターを弾きながら、彼の音のひとつひとつを辿る。彼の一音一音が哀切と歓喜と幻想と旅情と郷愁を運んでくる。
やっぱり、パット・メセニーにはハツ(Heart)があった。


